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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1425号 判決 1997年9月25日

控訴人

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

右指定代理人

大上良一

外一〇名

被控訴人

三菱タクシー株式会社

右代表者代表取締役

笹井良則

被控訴人

新三菱タクシー株式会社

右代表者代表取締役

村上雅一

被控訴人

三菱交通株式会社

右代表者代表取締役

村上雅一

被控訴人

新三菱交通株式会社

右代表者代表取締役

笹井良則

被控訴人

三菱興業株式会社

右代表者代表取締役

廣瀬保祐

右五名訴訟代理人弁護士

道下徹

豊島時夫

吉川法生

辻公雄

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張

一  被控訴人らの請求原因及びこれに対する控訴人の認否(認否は【】内に記載。以下同じ。)

1  当事者等

被控訴人らは、いずれも大阪市及びその周辺地域において道路運送法三条(以下法令は当時のものを摘示する。)に定める一般乗用旅客自動車運送事業(以下「タクシー事業」という。)を経営している者であり、訴外近畿運輸局長(以下「運輸局長」という。)は、同法八八条一項一号、同法施行令一条二項により運輸大臣から同法九条に定める旅客の運賃その他運輸に関する料金の設定及び変更についての認可権限を委任されている者である。【認める】

2  事実経過

(一) 被控訴人らを除く近畿運輸局管内のタクシー業者(以下「同業他社」という。)は、平成元年四月一日の消費税法の施行を控え、同年三月一七日までに消費税と同率の三パーセントの運賃値上げにつき運輸局長の認可を受け、更に、平成三年三月一二日付で平均11.1パーセントの運賃値上げの認可を受けて、同月二〇日からこれを実施していた。【認める】

(二) これに対し、被控訴人らは、円高差益の還元や経営努力を図るとして消費税の転嫁をしていなかったが、平成三年三月二七日、運輸局長に対し、「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に消費税額を加算する通知書」と題する書面を提出した。これは、被控訴人らが昭和五九年六月二六日に認可を受け、右当時まで実施していた距離制運賃、時間距離併用運賃又は時間制運賃により算出される額(原判決添付「別紙第二」に記載のとおりである。)に消費税の三パーセントを加算した一〇三パーセントを乗じ、一〇円単位に四捨五入した額を顧客から受領する旨の通知であり、右運賃値上げの内容は、同業他社が平成元年三月に認可を受けたものと同一のものであった。

【被控訴人らが運輸局長に対し右内容の通知書を提出したことを認め、それが消費税の転嫁であることを争う。】

(三) しかるに、運輸局長は、被控訴人らに対し、道路運送法九条の運賃変更(値上げ)認可申請をするように要請したため、被控訴人らは、同月二九日、運輸局長に対し、原判決添付「別紙第一」のとおりの運賃値上げ申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、運輸局長は同年四月三〇日に至ってようやくこれを受理し、同年六月一日にこれを公示し、同月二七日及び同年七月五日に被控訴人らに対する聴聞を実施したうえ、同年九月一二日に本件申請を却下した(以下右却下処分を「本件処分」という。)。

【運輸局長が運賃値上げ申請をするように要請したとの点を否認し、その余を認める。運輸局長は、運賃値上げ申請を要すると教示したのみである。】

3  運輸局長の行為の違法性(その一)

(一) 消費税は間接税であるから、被控訴人らは消費税を旅客に転嫁する権利(転嫁権)を有しており(税制改革法一一条一項)、これを行使するか否か、いつ行使するかは被控訴人らが決定することができる。これに対応して、控訴人は、税制改革法五条三項、一一条二項により、消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与すべき特段の法律上の義務がある。【争う】

(二) 消費税の転嫁分は、道路運送法九条にいう運賃ではない。運輸省自身、地域交通整備課長各の平成元年三月九日付通達により、財務諸表の作成においては税抜方式による会計処理により行い、売上げに係る消費税を仮受消費税等の勘定で、仕入れに係る消費税を仮払消費税等の勘定で処理する旨指示し、輸送実績報告書の取扱いについてもこれを準用する旨の指示をしている。また、右消費税額は運賃収入として課税対象となることも、従業員の歩合給の計算の基礎となることもない。

【消費税の転嫁分が道路運送法九条の運賃ではないことを争い、その余の事実は認める。】

(三) 消費税法及び税制改革法と道路運送法との関係は、前二者は後者よりもその制定時期が遅く、また、前二者は憲法三〇条、八四条の課税法律主義に基づいて制定されたものであるのに対し、後者は普通の法律であるから、前二者の方が上位の法律であるというべきであるうえ、税制改革法が消費税の転嫁そのものを対象としているのに対し、道路運送法は消費税の転嫁を含む運賃一般を対象としているから、消費税の転嫁に関しては、税制改革法は道路運送法の特別法の関係にあるというべきである。したがって、前二者の方が道路運送法よりも優先して適用されるものである。【争う】

(四) 以上によれば、被控訴人らは、道路運送法九条の運賃変更認可を受けることなく、消費税を転嫁することができるものというべきであり、本来そのために道路運送法に定める手続を経ることを要しないものであった。【争う】

(五) にもかかわらず被控訴人らは、運輸局長の行政指導にしたがい消費税転嫁のために本件申請をしたのであるから、このような場合、運輸局長はこれを直ちに受理し、かつ、道路運送法九条の要件を審査することなく直ちにこれを認可すべきであった。現に、運輸局長は、同業他社がした平成元年三月の運賃値上げ申請に対しては、各業者の経営状態が千差万別であるのに、また、免税事業者の多い個人タクシーについても、原価計算書の提出を求めたり、聴聞手続をしたりすることなく直ちに、一律に認可した(公示すらしなかったものもある)。また、被控訴人らが平成四年一一月一三日に同業他社と同一の運賃に値上げをする旨の運賃値上げ申請をした際も、消費税の転嫁部分については道路運送法九条二項の審査をすることなく認可している。

【運輸局長が、平成元年三月の運賃値上げ申請において聴聞を実施せず、一部については公示をしなかったこと、平成四年一一月の被控訴人らの運賃値上げ申請に対して認可したことを認め、その余を争う。】

(六) しかるに、運輸局長のした行為は前記2の(三)のとおりであり、控訴人は、被控訴人らから消費税の納付を受けておりながら、被控訴人らの消費税の転嫁を阻止し、本来無用で根拠のない本件申請をさせ、しかも、被控訴人らが消費税の転嫁として本件申請をするものであることは明確であったにもかかわらず約一か月もの間本件申請の受理を遅延し、更には無用の手続を重ねて判断を引き延ばし、結局本件申請を意味不明の理由により却下したものであって、右行為は、本件処分の効力(適法、違法)にかかわりなく、被控訴人らの消費税の転嫁権を妨害する違法な行為であるというべきである。【争う】

4  運輸局長の行為の違法性(その二)

仮に、被控訴人らの消費税の転嫁についても道路運送法九条の適用があるとしても、以下のとおり、本件処分は違法である。【争う】

(一) まず、原判決事実及び理由欄第三の二の2(原判決二一丁表四行目冒頭から同二三丁裏二行目末尾まで)を被控訴人らの主張として援用する。

(二) 控訴人の本件処分が違法でないとする主張は、要するに同一地域同一運賃の原則の正当性を前提として、本件申請では三パーセントの値上げにより道路運送法九条二項一号に定める要件が充分備わることになるか否かにつき、更に個別的判断をする必要があったところ、右判断に必要な資料の提出がなかったというにある。

(三) 道路運送法九条二項一号は、運賃等の変更認可基準として、「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること」と定めているところ、過剰利益防止の目的からの平均原価方式により設定され多数の事業者が一致して採用している運賃より低額の運賃の設定を希望して行われた本件申請の審査においては、適正原価維持を考慮して、運転者の労働条件低下からサービス面や安全上の問題を引き起こし、或いは不当な価格競争を引き起こすおそれがないか検討する必要があることを否定できない。

(四) しかし、本来労働条件の確保は運賃政策のみにより実現すべきものではなく、主として使用者と労働組合との団体交渉のなかで双方の努力により解決されるべきものであり、不正競争防止も道路運送法九四条所定の権限や同法三一条の事業改善命令の権限行使等のより直接的で有効適切と考えられる方法が準備されているのであって、これらの方法による解決をさておいて、運賃決定だけでこれらの危険を回避しようとするのは本来相当でなく、国民生活全体から見て道路運送の総合的な発達を図り、もって公共の福祉を増進する上で充分な合理性を欠く。即ち、民間の競争を促進することにより、国際的な経済摩擦の回避や日本経済の活性化を図り、消費者に対するサービスの質を高める必要があることは否定できず、同法九条二項一号においても能率的な経営が前提とされているのは、この趣旨と解されるからである。そうすると、このような観点を考慮することなく、労働条件の確保及び不正競争の防止のみを重視することは法の精神に反することになる。

(五) 一般に、適正原価・適正利潤より低い運賃水準のため労働条件の低下または不正競争などの問題が発生している際に、平均原価方式による水準に達しないまでも値上げ申請がなされたときに、道路運送法九条二項一号の定める基準に達しないとしてこれを却下することは、事態を放置するのと同じであって、益々これらの問題解決は困難となるのに、低い運賃のまま放置して当該業者が周囲との摩擦のため廃業に至り問題が解消するのを待つのでは、それが近い将来に実現可能とされるものでない限り背理である。まして右のような問題が現実に生じていないのに、平均原価方式による水準に達しない値上げ申請を同法九条二項一号に定める基準に達しないとして却下することは、業者の経営努力を否定し経済の活性化を妨げることに繋がるといわざるを得ない。更に、認可は補充行為であるから、同法九条は、業者の申請の範囲を超えて値上げを認可することは許されないものと解される。

(六) したがってこのような申請がなされた場合、当該行政庁としては、現行運賃水準では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないか否かを審査し、償うことができないと判断するときは、同法九条二項一号を弾力的に解釈し、申請の値上げ運賃額が平均原価方式により設定されている運賃以下であっても、右値上げによりいくらかでも利潤を生じるときには、適正利潤を含むものとして、特段の事情のない限り、業者の申請を認可することが法の予定しているところということができる。そして、業者が右の認可後の運賃によってもなお労働条件の低水準化や不正競争を図ろうとしているなど公共の福祉を阻害している事実があると認めるときは、同法三一条により運賃値上げその他の事業改善命令をするべきものである。

(七) このような見地に立って本件を見ると、運輸局長は毎事業年度毎に、財務諸表、人件費明細書及び営業概況報告書の提出を受け(同法九四条、運輸省令二一号参照)、本件申請の直前に同業他社から平均原価方式による値上げ申請の基礎資料の提出を受けており、また被控訴人らの本件申請の理由は円高差益の減少、一般的な運転手の賃金水準の上昇と消費税転嫁にあって、これらの客観的事情の下で被控訴人らが現行の運賃では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができない事態に至っており、改めて消費税の転嫁により能率的経営のための改善を図る必要があるというのであるし、申請どおり認可しても労働条件の低下や不正競争等の問題が起こる蓋然性が高いという事情も窺えないから、本件申請につき、現行運賃水準では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないか否かは、運輸局長の下に既に被控訴人らや同業他社から毎事業年度毎や直近の値上げ申請の際に提出されている既存の資料により、十分審査できたはずのものであって、仮に不足があるとしても直ちに提出可能な若干の資料を補充することで足りるということができる。したがって、本件値上げ申請の当否につき道路運送法九条二項一号の基準に適合するか否かを判断できる資料の提出がなかったことをもって本件却下処分を適法とする控訴人の主張は、理由のないものである。

(八) 次に本件処分の適法性について検討すると、被控訴人らが現行運賃では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができない事態に陥っており、改めて消費税の転嫁を図る経営上の必要があり、三パーセントの値上げにより利潤を得ることができるのであるから、本件申請については、同法九条二項一号に定める基準に適うものと見るべきであり、その他同項各号に定める基準にも適っているというべきであるから、これを認可すべきであるところ、これを却下した本件処分は違法であるといわなければならない。

(九) そのほか、次のことからも、本件処分は違法というべきである。

(1) 本件申請に対する審査判断は、消費税課税のための要件として控訴人が負担している円滑な転嫁寄与義務をも実現するためのものであるから、申請を却下するためには、通常の運賃値上げ申請についての判断基準のほかに、課税のための値上げであることについての判断基準を設けて適用すべきであるし、これがなくても課税のための値上げ認可申請であることを考慮して判断すべきであったのに、運輸局長はこれをしなかった。

(2) 本件申請の内容は、免税事業者である個人タクシー業者を含む同業他社が平成元年三月にした運賃値上げ申請と同一であり、これに対する取扱いと同様にすべきである。

(3) 運輸局長は、本件処分の理由は道路運送法九条二項一号に適合しないとしか告知しておらず、理由の告知がない。

(4) 運輸局長は、本件処分において、道路運送法が予定しているとはいいがたい同一地域同一運賃の原則を考慮してなされたものである。

5  運輸局長の故意、過失

以上に述べたところからすれば、運輸局長のした違法な本件処分は運輸局長の故意、少なくとも過失によるものである。【争う】

6  損害

運輸局長は、遅くとも平成三年四月末までには本件申請を認可すべきであった。被控訴人らは、平成四年一一月一三日、運輸局長に対し、同業他社の運賃と同額とすることを内容とする運賃値上げ申請を行い、同年一二月一一日付でその認可を受けたが、その間、消費税を転嫁することができず、原判決添付「別表損害額一覧表」記載のとおりの損害を受けた。(右期間中、平成三年六月から同年八月までの分は、別件訴訟において請求しているから、これを除いてある。)

【争う。被控訴人らは各月の総営業収入額に一〇〇分の三を乗じて積算しているが、一〇三分の三を乗じて積算すべきである。】

7  不正利得返還請求権(予備的請求)

(一) 被控訴人らは、原判決添付別紙「消費税納付一覧表」に記載のとおり、控訴人に消費税を納付した。

【否認する。被控訴人らが納付した消費税は、原判決添付「別表消費税納付状況一覧」に記載のとおりである。】

(二) 控訴人は、一方で被控訴人らの消費税の転嫁を妨げながら、他方で被控訴人らの消費税の納付を受け入れているのであって、控訴人の行動は矛盾している。転嫁を禁止するなら、消費税の納付はこれを拒否するか、納付があれば、積極的にこれを還付すべきである。

また、本件における運輸局長の行為の違法性は明白かつ重大であるから、右違法行為の期間中は被控訴人らに消費税納付義務はなく、被控訴人らのした確定申告は無効であって、右期間中に被控訴人らが納付した消費税は、法律上の原因を欠く。

【被控訴人らは、消費税の課税標準及び税額を計算した確定申告書を所轄税務署長に提出し、右申告書により確定した消費税の納付税額を納付し、その後所轄税務署長の更正等により取り消されたということもないから、被控訴人らの消費税納付義務は消滅しておらず、被控訴人らが確定申告行為の錯誤を主張しているのであればその錯誤が客観的に明白とはいえないから、被控訴人らの納付した消費税は、法律上の原因に基づくものである。】

二  控訴人の主張

1  消費税の転嫁権、消費税及び税制改革法と道路運送法との関係等について(請求原因3に対して)

(一) タクシーは、国民生活に欠くことのできない身近な公共交通機関であり、その運賃変動が物価に与える影響が少なくないため、タクシー運賃は重要な公共料金の一つとして厳正な取扱いがなされており、特に六大都市(東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸)のタクシー運賃については国民生活に与える影響が大きいことから、経済企画庁との協議に止まらず、当時は物価問題に関する関係閣僚会議への付議が義務付けられるなど、一層厳格な手続を採用していたのであって、消費税の転嫁権なるものが認められるか否かはしばらくおくとしても、道路運送法上の認可手続きをまって初めて、消費税の転嫁は可能となるものである。

(二) 税制改革法は一定の政策実施の基本理念、方針といった包括的な宣言をすることを趣旨とするプログラム規定的性格を有し、同法一一条二項は控訴人の政治的義務を定めたに過ぎないし、同法五条三項は同法一一条二項よりも抽象的な責任を定めているに過ぎず、これらから控訴人の法律上の義務を見出すこともできない。消費税法が消費税の転嫁に関して道路運送法の適用の排除をしようとしたのであれば、何らかの調整規定を置くはずであるのに何ら規定するところがない。また、消費税法及び税制改革法は課税法律主義に基づいて制定されたものであり、道路運送法よりも上位の法律であるというが、道路運送法も憲法上も公共的な運賃の規制の要請に基づくものであり、その優劣はない。

(三) 平成元年三月の消費税法施行に伴う同業他社の運賃値上げ申請についても、運輸局長は、道路運送法の適用があることを前提とし、短期間に大量の申請事案を処理する必要があったことなどから、同法の許容する範囲内で手続をある程度簡略化し、他方、同法九条二項各号についての判断を行い、超過利潤が発生しないかどうかを確認したうえで認可したものであって、税制改革法一一条二項に定める消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与すべき措置を採ったものである。

運輸局長が、被控訴人らの平成四年一一月の運賃値上げ申請において原価計算書等の添付を求めなかったのは、右申請が同業他社の現行運賃と同一水準の運賃に値上げするという同調申請であり、道路運送法施行規則一〇条三項一号の場合と同様の性格を有する申請であることから、同項四号により、その添付を要しないことにしたに過ぎないし、また、その審査において消費税転嫁部分とその余の部分とに区分して審査したものでもない。

(四) そもそも、被控訴人らは本件申請を消費税の転嫁であるというけれども、被控訴人らは、平成元年四月の消費税法施行に際して運賃値上げ申請をせず、その後自らの利益部分を削減してその部分を納付すべき消費税に充てることにより、実質的には既に平成元年四月以降消費税の転嫁を実施し、完了していたと考えることができるから、本件申請の実態は、平成元年四月以降の業界の環境の変化、円高差益の変化、運転手の労働条件の改善のために運賃の値上げが必要となったという運送原価の変動に基づくものであり、通常の運賃値上げ申請にほかならない。したがって、本件申請においても、消費税以外の他のコストアップ要因も含めて、適正原価、適正利潤を償うものであることを改めて審査する必要があった。

(五) 本件処分が適法なものであることは2において述べるとおりであるが、被控訴人らは、本件申請の受理の遅延を問題にしているので、この点について反論しておくと、本件申請は通常の場合と異なり、個別申請で、かつ、同業他社の現行運賃水準より低い運賃への値上げ認可申請であったことや、被控訴人らが従前から運賃値上げ申請を一般増車の要求と絡めて主張したり、本件申請は将来の同調申請の前段階の申請であるとの情報もあったことから、被控訴人らの真意を確認する必要があり、また、種々の助言・指導の結果、申請内容が変更され、却下、再申請という迂遠な手続を回避できる可能性もあったため、被控訴人らの実質的経営者である訴外笹井寛治との接触を図り、平成三年四月一一日には同人との会談も実現したことにより本件申請の取り下げもあり得るとの判断の下に本件申請の受理を留保していたところ、同月二五日に被控訴人らから本件申請の認可を督促する内容証明郵便が送付されてきたため、被控訴人らの、意思が明確になったと判断して、本件申請を受理することとしたものであって、右期間及び指導方法は著しく不相当なものではなく、違法とはいえない。

また、被控訴人らは、本件処分の遅延をも違法であると主張しているが、本件申請の特殊性や2において述べる事情に照らせば、本件処分が遅延したものとはいえず、行政裁量の範囲内のものというべきである。

2  本件申請の適法性(主として請求原因4に対して)

(一) タクシー事業には、それが公共輸送機関として多くの交通機関の中において重要な位置を占めていること、その市場はタクシー事業者間の競争が激しいこと、利用客が利用する車両を選択する余地は限られていること、運転手の賃金体系は歩合給の占める割合が多く、過酷な労働条件を強いられる可能性があることなどの特色があり、完全な自由競争に委ねることができない側面がある。そのため、道路運送法は、タクシー事業については免許制を、運賃については認可制を採用し、運輸開始義務、運送引受義務、運輸大臣の事業改善命令権限などを定め、規定違反に対しては罰則、使用等停止命令、免許取消命令等の制裁措置を採用するなどして、同法の目的を達成するための担保としている。

(二) 道路運送法九条二項各号の内容は、タクシー事業の公共性を尊重しその健全な発達を図るため、その運賃料金を、能率的な経営を基礎として適正な原価と適正な利潤を含めたものにすべきであるというものであるが、これら条項は抽象的な不確定概念を要件とするものであるから、実務を担当する行政庁において、具体的裁量基準を設定することになる。同項一号は「能率的な経営の下における」と規定しているが、タクシー事業においては各会社毎の原価にはある程度の差があるにしても、その主たる費用は人件費、車両購入費、整備費、運行経費が中心であり、会社による著しい差はない業種であるから、右「能率的」ということの解釈については、当該地域における平均的ないし標準的な企業を基準とし、当該地域で当該事業を経営するものとしての客観的な能力を基準として判定すればよいと解される。

(三) そのため、運輸省は、通達(「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準及び運賃原価算定基準について」昭和四八年七月二六日自動車局長通達。なお、これは平成五年一〇月六日付自旅第二一八号、同第二一九号により改正されている。)により、原価計算の方法を定めている。これによれば、全事業者の中から標準能率事業者を選定し、更に、その中から実績加重平均収支率が標準能率事業者のそれを下回らないように一〇社ないし三〇社の原価計算対象事業者を選定し、その原価及び利潤を基準にして運賃改定の検討を行うことになっている。そして、具体的には、全国をブロックに分け、ブロック毎に原価計算対象事業者のコストの平均値を基に値上げ率を査定する平均原価方式を定めて運用してきた。

(四) ところが、本件申請は、個別申請であり、かつ、当時の平均原価方式により既に設定されていた同業他社の運賃水準よりも低い運賃への値上げ申請であったうえ、直前の同業他社の運賃値上げ申請の審査において把握していた数値からして、そのような運賃であっても被控訴人らにおいて適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであるかどうかについて疑問があったため、これを個別に判断する必要があった。しかし、右のような申請は近畿運輸局管内では初めてのことであり、また当時、運輸省においては、右のような場合についての文書による審査基準は定められていなかったため、運輸局長は、前記通達における算定基準を準用して検討することとし、公示及び聴聞手続をとる一方、被控訴人らから原価計算書の提出を受けたが、これと、運輸局長の手持ち資料をもってしても、被控訴人らの平年度の運送収入、運送雑収、営業外利益、運送費(人件費、燃料油脂費、車両修繕費、車両償却費、その他)及び一般管理費の算定をすることができず、また、被控訴人らが提出した原価計算書には不自然な数値が記載されているところがあり、適正利潤の数値も通達に定める算定方法による数値と合致していなかったため、右算出の根拠となる資料等の提出及び説明が不可欠であった。そこで、運輸局長は、平成三年六月二七日及び同年七月五日の聴聞において、被控訴人らに対し、資料の提出と原価計算書の説明を求めたが、被控訴人らは、本件申請は消費税の転嫁であるとの説明に終始し、これに応じなかった。

(五) その間、同業他社の一部(九社)から聴聞の申請がなされ、全日本自動車交通労働組合大阪地方連合会から認可反対の意思表示が文書でなされたため、運輸局長は、同月一七日に右同業他社を利害関係人として聴聞し、右組合については利害関係人ではないが同月一九日に参考意見の聴取を行った。

(六) このような状況の下において、運輸局長は、運輸省とも頻繁に連絡、協議を行い、引き続き原価の説明を求めるかどうか、認可するかどうかについて、あらゆる選択肢(省内には認可するという考えもあった。)とその及ぼす影響等を慎重に検討した結果、被控訴人らが主張するように道路運送法九条二項一号を弾力的に解釈して本件申請を認可するならば、同号に適合するか否か、特に適正な原価を償うことができるといえるか否かの判断ができないのに認可することになり、それは実質的には最高運賃制を是認する結果となって、同法が運賃の変更につき認可制を採っていることの趣旨に反することとなることから、認可することはできないとの結論に達したものである。したがって、本件処分の理由は、本件申請についての審査につき被控訴人らの協力が得られず、道路運送法九条二項一号に適合するか否かの判断をすることができなかったためである。このように、本件処分は同法に適合するものであるし、また、前記のような対応の選択は、政策的、専門的、技術的観点からの検討を必要とする極めて高度な行政裁量の問題であり、本件処分はその裁量権の範囲内にある妥当な判断であるから、本件処分は適法というべきである。

(七) なお、以上に照らせば、被控訴人らの、本件申請に対する審査判断は通常の運賃値上げ申請についての判断基準のほかに、課税のための値上げであることについての判断基準を設けて適用すべきであり、これがなくても課税のための値上げ認可申請であることを考慮して判断すべきであったとの主張や、同業他社が平成元年三月にした運賃値上げ申請に対する取扱いと同様に認可すべきであるとの被控訴人らの主張は失当であるし、運輸局長は本件処分において同一地域同一運賃の原則を考慮したものではない。また、被控訴人らは本件処分の理由の告知がないと主張しているが、却下状には道路運送法九条二項一号に適合しないとの理由を記載しているし、運輸局長は、聴聞の際に再三にわたり審査に必要な説明をするように求めており、被控訴人らにおいて却下理由は十分予測できたはずである。

3  国家賠償法一条一項の違法性及び故意、過失について

仮に、本件処分が違法であるとしても、国家賠償法一条一項の違法性や運輸局長の故意、過失はないものというべきである。

(一) 国家賠償法一条一項の違法性の有無は、行政処分の取消訴訟におけるそれとは異なり、行政処分の法的要件充足性の有無のみならず、被侵害利益の種類、性質、侵害行為の態様及びその原因、行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無、程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断し、当該公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背したかどうかにより決すべきである。

(二) また、同項は、違法な公権力の行使に当たった公務員に違法性の認識における故意、過失があった場合に限って、国に損害賠償責任を課することとしているものと解されるところ、一般に行政法規の解釈、適用は必ずしも容易ではなく、事案の内容如何によっては事実関係が複雑でその究明が困難な場合もあり得るのであるから、一見明白な法解釈の誤りや、事実の誤認を犯したのであれば格別、当該公務員が職務上要求される通常の法律の知識等に基づいて一定の解釈を正当であると判断してした処分が、事後において裁判所の判断によって違法と判定されたとしても、そのことから直ちに当該公務員に故意過失があったものと即断することはできない。

(三) 本件申請は、公共料金であるタクシー運賃に関するものであり、物価安定との関係でも重要な位置づけがなされていたものである。そして、被控訴人らが主張するような消費税転嫁を理由とする値上げ申請についても、道路運送法九条二項が規定する認可基準を満たすことが必要である。しかも、本件申請は、形式上消費税転嫁を理由とするものであったが、その実態は収支の均衡を得るための通常の運賃値上げ申請であったと把握できたのであるし、本件申請に関する被控訴人らの真意にも問題があった。このような状況において、運輸局長が道路運送法の規定に基づいて、特に適正原価・適正利潤条項の適用をしてその審査に当たろうとしたことには合理性がある。しかるに、被控訴人らは、運輸局長の要請にもかかわらず、原価計算書の数値の説明や、その積算の基礎となる資料等の提出を拒否した。他方、本件申請については同業他社や労働組合から認可反対の意見が出されるなどしており、運輸局長は、そのような状況の中で、運輸省とも緊密な連絡、協議を重ね、本件申請への対応についてあらゆる選択肢、法的問題点、全国的な影響、処分後の対応等タクシー行政の根幹にかかわる重大事項について種々の議論をし、検討を尽くした上で最終的な結論を出したものである。そして、本件処分の最大の理由は、被控訴人らから原価計算書の数値についての具体的な説明や資料の提出がないまま認可すれば、道路運送法が求める審査を尽くさないまま認可するという、行政責任の放棄となるような事態を避け、行政機関の使命を果たすためのものであった。このように、消費税、税制改革法及び道路運送法の適用関係が問題となり、その間に具体的適用関係を定めた規定や参考となる規定もないうえ、被控訴人らの対応に相当問題があるような事案において、運輸局長がした法適用、解釈が、一見明白な誤りであるとはいいがたいし、運輸局長は、職務上要求される通常の法律知識に基づいて解釈し、本件処分をしたものである。したがって、仮に、本件処分が違法であると判定されたとしても、そのことから直ちに運輸局長の行為に国家賠償法一条一項の違法があり、あるいは故意、過失があるとはいいがたいものである。そして、被控訴人らは、本件処分の後は再申請するなどの迅速な善後策を採らずに、その主張する損害を拡大させているのであるが、このことについて運輸局長は回避する手段を持たなかったものである。

第三  証拠<省略>

理由

一  消費税の転嫁と運賃等変更認可申請の要否について

被控訴人らは、消費税の転嫁権を有するから、これを実施するためには本来道路運送法九条一項の認可申請は不要である旨主張する。

消費税は、最終的には消費者が負担するものとして立法された間接税であるところ、税制改革法一一条一項は「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。」と規定しており、その文言からすれば、事業者の消費者に対する消費税の転嫁は義務として定められたものであり、その反射的効力として、事業者には消費者に対して消費税を転嫁する権利があるものと解される。しかし、そうであるとしても、その行使については公共の福祉による制約を免れることができない場合もあるのであり、道路運送法が、タクシー事業が国民生活に重要な影響を及ぼすものであることを考慮してその運賃の設定及び変更には運輸大臣の認可を要するものとしていること、また、道路運送法より後に制定された法律であるとはいえ、消費税法や税制改革法その他においてその転嫁につき特別の調整規定等を置いていないことからすれば、それが、消費税の転嫁を意図するものであっても、運賃に反映するものである以上は、それは運賃の値上げの申請をし、それに対する認可を得るという方法で行使することを要するものというべきであるから、右被控訴人らの主張は理由がない。

そこで、以下本件処分が適法であったか否かにつき、順次検討する。

二  事実経過

原判決事実及び理由欄第三の二の1(原判決一八丁表一行目冒頭から同二一丁表三行目末尾まで)を引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

1  原判決一八丁表二行目「一二、」を「五ないし七、八の1・2、九ないし」と改め、同行「一三」の次に「、当審証人宮崎、同各務」を加え、同行「前記」を削除し、同三行目「ない事実」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加える。

2  同裏三行目の次に行を改めて以下のとおり加え、同五行目「を認可された」を「運賃を実施するに至った」と改める。

「 その後、平成二年四月二六日に大阪地区法人タクシー事業者の約九〇パーセントで組織する訴外大阪タクシー協会に加盟する各社から、運転手不足の解消と労働条件の改善を理由として運賃値上げ申請がなされ、同年九月二〇日には個人タクシー五〇二〇者からも同様の申請がなされたが、被控訴人ら五社を含む大阪ハイヤータクシー協会加盟の七社、訴外大阪府乗用自動車協会加盟の九社及び大阪タクシー協会加盟の二社は値上げ申請をしておらず、大阪タクシー協会から値上げ申請に対する認可の遅れや二重運賃の格差が広がることの懸念も表明されていた。そこで、運輸局長ほか近畿運輸局幹部らは、同年一〇月以降、被控訴人らの実質的経営者である笹井寛治や各協会幹部らと協議を進めたが、笹井は、一般増車を認めてくれれば運賃変更認可申請をしてもよい旨表明し、運輸局長らが一般増車は直ちには認められないが現行の増車基準の見直しは行うとの意向を示しても、その態度を変えなかったため、運輸局長は、これ以上の説得は無理であると判断し、同年一二月一七日、最終的に運賃変更申請をしなかった被控訴人ら五社を除く同業他社からの運賃値上げ申請について公示を行った。翌平成三年二月には審査も大詰めを迎え、運輸局長は再度笹井の意思を確認したが変わりはなかったことから、同年三月一二日付で右申請について平均11.1パーセントの値上げを認可し、同月二〇日から実施の運びとなった。なお、同月二六日の参議院運輸委員会において、右認可の結果拡大された大阪A、B地区における二重運賃の解消方法について、同一地域同一運賃を堅持する立場からの質問がなされ、政府委員及び運輸大臣もその方向で解決するよう努力するとの答弁をしている。」

3  原判決二〇丁裏一〇行目「経た後、」の次に「運輸省本省とも頻繁に連絡を取り、協議、検討した結果、」を、同二一丁表三行目末尾に「なお、被控訴人らは、本件処分がなされるよりも前に前記別件訴訟を大阪地裁に提起していた。」をそれぞれ加える。

三  運輸局長の運賃等変更認可申請に対する審査手続、審査基準及びその運用法の定める手続き並びに証拠(甲一の1ないし5、二ないし一一、一七の1・2、一九ないし二三、二九ないし三二、三三の1・2(原審書証目録上は三三、三三の1)、三七ないし四二、五四、六三ないし七三、八六、九二、九三ないし九七の各1ないし4、一〇〇、乙一の1ないし5、三、一二、一三、一九の1・2、当審証人宮崎、同各務)及び弁論の全趣旨により認められる事実は、以下のとおりである。

1  運賃等変更申請手続き

道路運送法九条一項により運賃等変更認可申請をしようとする者は、同法施行規則一〇条一項にしたがい、同項所定の事項を記載した運賃及び料金設定(変更)認可申請書を提出するとともに、同条二項により申請書には原価計算書その他運賃及び料金の額の算出の基礎を記載した書類を添付するものとするとされているが、同条三項により同項各号に定められた場合には右添付書類の提出を要しないものとされている。そのうち一号には「路線又は事業区域を共通にする他の一般旅客自動車運送事業者がその路線又は事業区域を共通にする部分について、現に適用している運賃及び料金と同一の運賃及び料金の設定の認可の申請をする場合」と、四号には「前三号に掲げる場合のほか、一般旅客自動車運送事業を経営している者が当該事業の運賃及び料金の設定又は変更の認可を申請する場合であって、運輸大臣(運賃及び料金の設定又は変更の認可の権限が地方運輸局長に委任されている場合にあっては、地方運輸局長)が必要がないと認めたとき」とそれぞれ規定してある。運輸局長は、同法施行規則五五条により公示を行い、同法八九条により利害関係人等からの聴聞を行うことができることとされている。

2  運輸省の定めた審査基準

運輸省は、経済企画庁と協議を行ったうえ、道路運送法九条の認可基準として、昭和四八年七月二六日付自旅第二七三号運輸省自動車局長通達「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準及び運賃原価算定基準について(依命通達)」を定めており、これは平成五年一〇月六日付自旅第二一八号、同第二一九号により改正されている(以下右改正前のものを「本件通達」という。)。右本件通達の内容の概略は以下のとおりである。

(一)  まず、運賃改定の要否が、本件通達別紙(1)「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準」(以下「検討基準」という。)により次のように判定される。

(1) 地域区分の基準は、陸運局長が同一運賃を適用する事業区域として定めた地域(運賃適用地域)を単位とする。

(2) 検討基準に定める原価標準基準・サービス標準基準・効率性標準基準に則り、不適当な者を除外して、標準能率事業者を選定する。その数については、運賃適用地域の全事業者の保有車両数合計の五〇パーセント以上の車両数となるように選定する。

(3) 標準能率事業者の事業収支状況が、次の①及び②のいずれにも該当する場合に、運賃改定の必要ありと判定する。

① 実績年度における適正利潤を含む加重平均収支率が一〇五パーセントを超えないこと。

② 実績年度の適正利潤を含む加重平均収支率が一〇〇パーセント以下の場合、または、実績年度の翌年度の原価に適正利潤を加えた加重平均収支率が一〇〇パーセント以下と推定される場合。

(4) なお、実績年度とは、現行運賃の算定を行った原価計算年度以降における年度で決算が終了した年度のうち直近の年度のことを、加重平均収支率とは、事業収益(運送収入・運送雑費・営業外収益を合計したもの。)を、運賃原価(運送費・一般管理費・営業外費用・適正利潤を合計したもの。)で除した数値に一〇〇を乗じたものをいう。また、適正利潤は、自己資本(他事業を兼業している場合には、タクシー事業のみに絞って換算した自己資本を算定する。)の一〇パーセントに当たる額を利潤とし、法人税・都道府県税・市町村民税を考慮して計算するとされている((二)の算定基準による)。

(二)  次に、運賃改定が必要であると判定された場合には、本件通達別紙(2)「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃原価算定基準」(以下「算定基準」という。)により、どの程度の値上げ幅が妥当かという「運賃率」を算定することになる。

(1) まず、標準能率事業者の中から、その企業規模(保有車両数)及び収支率のばらつきを調整した上で、一〇社から三〇社までの間の原価計算対象事業者を選定し、これらの原価計算対象事業者について算定する。

(2) 原価計算は、原価計算期間の原価対象部門にかかる運賃原価を原価要素の分類にしたがって算定する。原価計算期間は、実績年度、翌年度、平年度(実績年度の翌々年度)の三年度とし、運賃率は平年度の原価に基づき算定する。

(3) 具体的には、原価計算対象事業者に、原価計算書の各数値の細目の一覧表(附属表を含めて総数一三表に及ぶもの)及びその根拠となる資料を提出させ、これに基づいて各原価計算対象事業者について、実績年度、翌年度、平年度の事業収益、運賃原価及び輸送実績の細目数字を集計する。翌年度及び平年度の細目数字は、実績年度の集計結果から予測を行うことになるが、そのために実績年度を含む過去三年間の事業収益、運賃原価及び輸送実績の細目数字を集計してその推移を観察する必要がある。そして、その実績を参考にし、かつ、算定基準の詳細な定めにしたがって、翌年度及び平年度の事業収益予測、運賃原価予測を行うことになる。

(4) 以上により算定された平年度の予測運賃原価(適正利潤を含む)に見合う事業収益を得るためには、現行の運送収入をいくら値上げすべきかを意味する所要増収率を算定する。その計算は、運賃原価から運送雑収と営業外収入とを控除した額を運送収入で除して、それから一を控除することにより求める。

(5) 運賃率は、運賃改定による増収率が、原価計算の結果に基づく所要増収率と等しくなるよう算定する。その算定は、算定基準に基づき、基本運賃と爾後運賃とに分け、車種別構成比等を勘案して、全体として所要増収率の範囲内に止めるように計算する。

(三)  以上のとおり、本件通達の審査基準は、一斉運賃改定を前提としたいわゆる平均原価方式である。近畿運輸局管内においては、本件申請まで申請額が査定額を下回るような例はなく、従前は右作業を行うのに概ね四、五か月を要していた。

3  平成元年三月の運賃値上げ申請の際の審査方法

運輸局長は、右値上げ申請が消費税の転嫁に伴うものであること、申請がなされたのが平成元年二月以降であり、消費税法の施行期日までの短期間に大量の申請を処理する必要があったことから、公示を行い(申請が遅れた業者については一斉認可をするために公示を省略した。)、聴聞については利害関係人からの申請がなかったため実施せず、原価計算書の添付を省略させる一方、当時の現行運賃を認可した際の原価計算対象事業者に収支計算書の提出を求め、消費税の課税、物品税の廃止等原価の変動要素を勘案して超過利潤が発生しないかどうかを確認して(その際三パーセントの値上げでは安すぎないかについての判断はしていない。)、一斉に同一の運賃率でこれを認可した。

4  本件申請に対する審査方法

(一)  運輸局長は、本件申請のように個別で、かつ、同業他社が実施していた現行運賃の水準よりも低い水準の運賃値上げ申請は近畿運輸局管内では初めてのことであったこと、被控訴人らが平成元年の消費税法施行の際には円高差益や経営努力を理由に消費税の転嫁としての運賃値上げ申請をせず、その間の同業他社の運賃値上げ申請の審査の過程において運賃原価の変動を把握していたことから、被控訴人らは本件申請を消費税の転嫁のためであるとしているけれども、実質的には運賃原価の変動による通常の値上げ申請であると判断したこと、直前の同業他社の運賃値上げ申請の審査において把握していた数値からして本件申請による値上げ率では適正原価を償うことができるかどうかに疑問があると考えたことなどから、本件申請については個別に原価計算を行う必要があると判断し、また当時、運輸省においては、右のような場合についての文書による審査基準は定められていなかったため、本件通達における検討基準、算定基準を準用して審査することとし、公示及び聴聞手続をとる一方、被控訴人らに原価計算書その他の添付書類の提出を求めた。

(二)  しかし、被控訴人らが提出した原価計算書と、運輸局長が被控訴人らから毎事業年度毎に提出を受けていた財務諸表、人件費明細書及び営業概況報告書並びに本件申請の直前に認可した同業他社の運賃値上げ申請についての基礎資料をもってしても、被控訴人らの平年度の運送収入、運送雑収、営業外利益、運送費(人件費、燃料油脂費、車両修繕費、車両償却費、その他)及び一般管理費の算定をすることができず、また、被控訴人らが提出した原価計算書には不自然な数値が記載されているところがあり、適正利潤の数値も本件通達の算定基準による数値と合致していなかったため、右算出の根拠となる資料等の提出及び説明が不可欠であった。その細目の概要は次のとおりである。

(1) 平年度の運送収入は、車キロ当り収入×査定走行キロにより算定し、車キロ当り収入は過去三年間の実績の推移をみて算定するとされているが(算定基準第7の1)、被控訴人らの原価計算書に記載された数値の算出根拠の資料及び説明がなければ査定することが不可能であった。

(2) 運送雑収、営業外収益は、営業報告書で判明するが、被控訴人ら内部でも、平成元年度数値と平成三年度数値とが同じものと異なるものとがあり、その説明を受ける必要があった。

(3) 実績年度の運送費(人件費・燃料油脂費・車両修繕費・車両償却費・その他の運送費)は、営業報告書で把握することができるが、平年度のそれは、過去三年分の実績を把握して推計する必要があり、そのためには毎年提出される営業報告書では不十分であった。そのほか、人件費については算定基準第6の2の(1)に定める「翌年度の給与改定による増加分」が、燃料費については算定基準第6の2の(2)に定める「最近の購入価格」、「過去3年間の実績の推移」が、車両償却費については「最近における現金購入価格」、「実績平均使用期間」が、その他の諸経費のうち諸税と保険料については算定基準第6の2の(5)のハ、ニに定める「過去三年間の実績の推移」が、一般管理費中の人件費については算定基準第6の2の(6)のイに定める「平均給与月額」が、それぞれ不明であった。

(4) 適正利潤については、算定基準第6の(8)に定める算定方法により計算した額と被控訴人らが原価計算書に記載した額との間に相違があった。

(5) そのほか、被控訴人らが原価計算書に記載した運送収入、燃料油脂費の増加率が、同一グループであるにもかかわらず大きく食い違うなど、運輸局長の目から見て不自然な記載があった。

(三)  そこで、運輸局長は、被控訴人らに対し、資料の提出を求めるとともに、平成三年六月二七日及び同年七月五日の聴聞において、原価計算書の積算等について繰り返し説明を求めたが、被控訴人らは、本件申請は消費税の転嫁であるとの説明に終始し、これに応じなかった。このような状況の下において、運輸局長は、運輸省とも頻繁に連絡、協議を行い、引き続き原価の説明を求めるかどうか、認可するかどうかについて、本件申請を認可する場合も含めてあらゆる選択肢とその及ぼす影響等を検討した結果、もともと直前に認可した同業他社の値上げ申請の審査において把握していた原価計算対象事業者の平均原価計算値からして本件申請の値上げ率では適正原価を償うことができない疑いがあったうえ、本件申請を認可するならば、右値上げ率で道路運送法九条二項各号、特に同一号の適正な原価を償うことができるといえるか否かの判断ができないのに認可することになり、それは実質的には最高運賃制(一定の運賃額以下であれば、事業者がどのような運賃額を定めてもよいとする制度)を是認する結果となって、同法が運賃の変更につき認可制を採っていることの趣旨に反することとなることから、認可することはできないとの結論に達し、本件申請についての審査につき被控訴人らの協力が得られず、道路運送法九条二項一号に適合するか否かの判断をすることができなかったことを理由として、本件申請を却下した。なお、同却下決定の書面である却下状には、却下の理由として「道路運送法第九条第二項第一号に適合しない」と記載されているにとどまるが、平成三年九月一五日発行の雑誌「交通現代」には、「三菱五社運賃の却下理由」は「①申請運賃の認可基準への適合性を審査するために、原価計算の考え方等の申請内容を聴取しようとしたが、申請者は消費税転嫁という主張を繰り返すのみで、申請内容についての説明は得られなかった。なお、タクシー運賃の適正原価には当然にその一部として消費税が含まれるが、認可に当たっては、その運賃が人件費、燃料油脂費等の原価を含め、原価全体を償い得るものかどうかを審査する必要があり、原価の一部である消費税のみを取り出して運賃の適否を判断することはできない。②また、申請者からの説明は得られなかったものの、提出資料を参考として今回の申請運賃について標準原価(各運賃ブロックにおける標準的な経営を行う事業者の原価)に照らしてみたところ過少であり、運賃の認可基準に適合していると認めることはできなかった。」というものである旨の記事が掲載されている。

四  本件処分の行政行為としての違法性の有無について

1  道路運送法九条二項本文は「運輸大臣は、前項の認可をしようとするときは、次の基準によって、これをしなければならない。」と、同項一号は「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること。」とそれぞれ規定している。右に定める要件は抽象的で不確定な概念であり、同法を執行する立場の運輸省が本件通達により一定の解釈基準と審査基準を定めたこと自体は、それが同一地域同一運賃を前提としていることに議論の余地があるとしても、法が予定している当然のことであるということができる。

2  ところで、本件処分は、本件申請が本件通達が予定している同一地域同一運賃の原則に反することを理由として、道路運送法九条二項一号該当性の実質的審査を行うことなくなされたものではない。運輸局長は、当時、個別かつ同業他社が実施している現行運賃水準よりも低い水準への運賃値上げ申請に対する審査基準が策定されていなかったことから、本件通達に定める検討基準及び算定基準を準用して、資料から前条項に該当するか否かを個別に審査判断しようとしたものであって、右検討基準及び算定基準は、申請業者のうちから選定した原価計算対象事業者についての原価計算に基づいて全申請業者についての判定を行うという同一地域同一運賃の原則を前提とした処理方法を採っているという点を捨象して、その原価計算の方法そのものを見るならば、道路運送法九条二項一号の具体的判定基準として合理性を有すると考えられるから、運輸局長の右対応は是認できるものである。

3  そして、前記認定のとおり、運輸局長は、被控訴人らから原価計算書の提出を受けたものの、これと運輸局長の手持ち資料をもってしても、検討基準及び算定基準にしたがって被控訴人らの平年度の運送収入、運送雑収、営業外利益、運送費(人件費、燃料油脂費、車両修繕費、車両償却費、その他)及び一般管理費の算定をすることができず、また、被控訴人らが提出した原価計算書には不自然な数値が記載されているところがあり、適正利潤の数値も本件通達の算定基準による数値と合致していなかったことから、右算定の根拠となる資料等の提出及び説明を被控訴人らに求めたのに、被控訴人らがこれを拒否したため、運輸局長としては道路運送法九条二項一号該当性の的確な判定をすることはできなかったということも、事実として否定することができないところである。

4  道路運送法は、「貨物自動車運送事業法と相まって、道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立することにより、道路運送の総合的な発達を図り、もって公共の福祉を増進しようとすることを目的とする。」(同法一条)ものであり、タクシー事業については、それが公共輸送機関として多くの交通機関の中において重要な位置を占めていること、その市場はタクシー事業者間の競争が激しいこと、利用客が利用する車両を選択する余地は限られていること、運転手の賃金体系は歩合給の占める割合が多く、過酷な労働条件を強いられる可能性があることなどの特色からして、タクシー事業を完全な自由競争に委ねることができない側面があるため、事業について免許制を、運賃について認可制を採用し、運輸開始義務、運送引受義務、運輸大臣の事業改善命令権限などを定め、規定違反に対しては罰則、使用等停止命令、免許取消命令等の制裁措置を採用するなど広範な規制をして、同法の目的を達成しようとするものである。そして、同法九条二項一号は、タクシー事業の公共性を尊重しその健全な発達を図るため、その運賃料金を、能率的な経営を基礎として適正な原価と適正な利潤を含めたものにすべきであると定め、過当競争による運転手の賃金ないし労働条件の劣悪化、不正な競争による国民に対するサービスの低下を、運賃の認可という手段により事前に防止しようとするものということができる。したがって、同法は、運賃値上げ申請であっても、その値上げ率により適正な原価を償うことができないような低額なものであれば、同号に反するものとしてこれを認可しないことをも、当然に予定しているものといえる。

5  ところで、被控訴人らは、本件申請は被控訴人らの権利である消費税の転嫁を意図してなされたものであるから、このような申請がなされた場合には、当該行政庁としては、現行運賃水準では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないか否かを審査し、償うことができないと判断するときは、道路運送法九条二項一号を弾力的に解釈し、申請の値上げ運賃額が平均原価方式により設定されている運賃以下であっても、右値上げによりいくらかでも利潤を生じるときには、適正利潤を含むものとして、特段の事情のない限り業者の申請を認可することが、法の予定するところである、として、前記事実欄第二の一4(一)(四)等において縷々主張している。

しかしながら、被控訴人らが主張するところは、届出制を採用した場合と同様の結果を認容すべきものとすることであり、規制手段として認可制を採用・維持している法が、当然にそのような処理を予定しているものと解することは、到底できないところである。

すなわち、右認可規制は、労働条件の確保が主として労使の団体交渉のなかで双方の努力によって解決されるべきものであることは、所与の前提として、定められ、消費税法や税制改革法の施行後も現にそのまま維持されているものである。また、被控訴人らは、法九四条所定の権限や法三一条の事業改善命令の権限行使等の、より直接的で有効適切な方法があると主張しているけれども、これらは、右4で述べたような観点から、運賃の認可規制と並行させるべきものとして、法が定めているものであるところ、前者は、その効果が事業経営に重大な影響を及ぼす収入の増減に直結するものではないところから、また、後者は、当該「事業について公共の福祉を阻害している事実があると認める」とき、という厳しい要件の下に、他律的にでも改善を要する場合に行われる非常の措置であるところから、いずれも、軽々に運賃の認可規制の機能を代替することのできる規制手段であると認めることはできない。もっとも、規制手段が認可制であるため、申請にかかる金額を超えて値上げを認可することはできないものと解され、消費税の転嫁の早期実現という観点からは、若干問題であることは否めないところであるけれども、この点は、審査結果に基づく適切な示唆・指導、あるいは却下決定の付記理由に所要の事項を明示することによって、あるいは申請にかかる値上げ金額を変更させ、あるいは新たに認可可能な値上げ申請をする契機を与えることができるのであり、それによって、真実その転嫁を求める事業者の関係では、概ね解消することができる問題であると考えられるところである。

もとより、右認可制による規制目的に適う運賃の額には、当然、個別の申請毎に相当程度の幅がありうるものと考えられるところ、当該申請にかかる変更運賃の額がその幅の中にあるか否かの判断は、専門的・技術的観点からする行政裁量に委ねられているものと解され、値上げ申請の主たる目的が消費税の転嫁にあるような場合に、その早期実現という観点からの政策的配慮によってその幅に若干の弾力性を持たせることもその中に含まれるものと解することはできるとしても、右幅の範囲の外にある申請については、認可しないのが原則であると解するほかはない。

6  結局、本件処分は、先に二で認定した事実経過及び三4で認定した本件申請に対する審査方法に関する事実に基づき、右1ないし5で述べたところからすれば、運輸局長が、法の予定する原則に則って本件申請を処理すべく、その判断資料の提出・説明を求めたのに対して、自らの主張に固執してこれに応じようとしなかった被控訴人らの非協力的な態度により、その申請にかかる値上げ金額が前記の裁量により認可することができる許容範囲内にあるか否かを判断するための前提となる事実を的確に把握することができなかったところから、やむなく、「法第九条第二項第一号に適合しない」(所要の説明は得られず、提出資料の限度では認可基準に適合しているものとは認められない)ことを理由としてなされたものであって、これを違法ということはできないところである。

7  ところで、被控訴人らは、平成元年三月の免税事業者の多い個人タクシーを含む同業他社の運賃値上げ申請に対する対応と異なると主張する。確かに、運輸局長は右申請において手続きを簡略化し、また、適正な原価を償うに足りるかどうかの判定のための原価計算を行っていないが、そのような処理をしたのは、主として消費税法の施行を間近に控え短期間に大量の審査をしなければならなかったためであり、本件申請の場合とは事情が異なるし、それは運輸局長の前記裁量権の範囲内のものであるといえ、そのことをもって平等原則に違反するとはいいがたい。また、免税事業者が多い個人タクシー業者についての審査には消費税の転嫁ということを考慮するのは本来疑問であるところから、その審査には不当なところがあったとしても、そうであるからといって本件申請の審査も同様にすべきであるということにはならない。

被控訴人らは、本件処分は道路運送法が予定しているとはいいがたい同一地域同一運賃の原則を考慮してなされたものであるとも主張するが、前記のとおり、本件処分は同一地域同一運賃の原則に反するとしてなされたものではない。また、前記一で認定した事実からすれば、運輸局長がそれまで右原則にしたがって被控訴人らに同業他社と同一水準にする同調申請を働きかけていたことは事実であるが、本件申請に対する運輸局長の対応に関しては社会的に注目されていたこと、運輸局長は運輸省本省と頻繁に連絡をとり、協議、検討を重ねた結果本件処分を選択したものであることなどの状況に照らせば、被控訴人らが同調申請をすることを拒否したことに対する報復を隠れた真の理由として本件処分がなされたと認定することはできない。

なお、被控訴人らは、本件処分の理由は道路運送法九条二項一号に適合しないとしか告知しておらず、理由の告知がないとも主張するが、既に認定したとおり、運輸局長は聴聞において資料の提出と原価計算書の説明を求め、被控訴人らはこれを拒否していたのであるから、そのことにより却下される可能性があることを被控訴人らが予測することは十分に可能であったものというべきであって、もとより本件処分が運輸局長の恣意的な審査・判断によるものではないというべく、また、先に認定した交通現代の記事に照らせば、被控訴人らが却下理由の詳細を十分承知していたことは明らかであるから、右被控訴人らの主張は理由がない。

五  以上によれば、本件処分は行政処分として違法であるとはいいがたいから、国家賠償法一条一項にいう違法性があるとは認めがたく、その余の点につき判断するまでもなく、被控訴人らの請求はいずれも理由がない。

なお、被控訴人らは、運輸局長の行為は、本件処分の行政処分としての違法、適法に関わりなく、消費税の転嫁権を妨害するものであって、国家賠償法一条一項に定める違法な行為であると主張しているが、本件処分により被控訴人らの消費税の転嫁権が結果として妨げられたとしても、本件処分が適法であれば、それは適法な公共の福祉による制約なのであるから、同条項に定める違法性を具備することはないものというべきである。

また、被控訴人らは、本件申請の受理の遅れたことについても、それが違法であると主張している。しかし、右四1ないし6で述べたところに前記一で認定した事実経過を併せて考えれば、本件申請に関する被控訴人らの真意に疑問を持ち、その受理をしばらく留保して事情を聴取しようとした運輸局長の態度にもあながち無理からぬところがあるものと認められるのであって、前記認定にあらわれた程度遅れたからといって、右受理の遅れが違法であるとまでいうことはできないところであるから、右主張も理由がない。

六  予備的請求について

被控訴人らが消費税を納税したのは、被控訴人らがした納税申告に基づくものであり、これにより税額が確定しており、かつ、本件処分は適法であって被控訴人らの主張する錯誤の余地はないから、法律上の原因がないとはいえず、その余を判断するまでもなく、不当利得返還請求は理由がない。

以上によれば、被控訴人らの請求はいずれも理由がないから、原判決を取り消して右請求を棄却することとし、民訴法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官富澤達 裁判官古川正孝 裁判官塩川茂)

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